那須平成の森のように新しくできた組織にとって、地域にとけ込むことは課題のひとつと言っても過言ではないでしょう。なぜなら、一般論ですが、多くの日本地域社会では、外から来る者に対し情緒的に思考するため、新しいものを認知する(受け入れる)までに相当な時間をかけると言われているからです。早くとけ込めばとけ込むほど、連携への道も早めることができます。地域との関係性をどのように築いていくのか、最初の一歩を踏み誤らないように慎重に糸口を探ろうと考えていたことを思い出します。ただ一点、公共の場をお預かりする立場として、開園当初から「中立」「公平」の姿勢で地域とつながっていくことは念頭に据えていました。
私たちの地域との関係づくりはゆるやかに始まっていきました。地域の人たち個人個人、つまり「点」とのつながりを増やし、それぞれを丁寧につないで「線」にしていくという方法です。私たちが地域の様子がよく分からない状況だったからでもありますが、それは手間のかかる長期的戦略でもありました。2020年4月から10年目を迎えた那須平成の森ですが、この長期作戦で多くの人たちとつながるようになりました。酒屋さん、絵本の読み聞かせをする方、民宿のご主人や娘さん、山登りの達人、カフェの青年、料理の上手な農家さん、印刷屋さん、古道具屋さん、おしゃれな器屋さん、御用邸管理事務所の元所長さん、出版関係の方、頻繁に来ていただけるコアなリピーターなどなど、数え始めると枚挙にいとまがありません。那須界隈には個性的な人たちが沢山いることを知るには、この作戦はぴったりでした。
その一方で、徐々に地域の組織化された集団とのつながりも出来始めていきます。それは、那須町立の小中学校、町内にある県立高校、県立の自然の家、若干距離は離れていますが国立の青少年自然の家など青少年教育施設と呼ばれる施設です。それから、公民館などの社会教育施設とも連携していきました。これらの学校や施設とは、那須平成の森でのプログラム体験の他、私たちが学校などに出向く出前授業、また、施設の利用ガイドに那須平成の森のプログラムを案内していただくなど、双方で協力できる体制が整っていきました。
国立那須甲子青少年自然の家との連携プログラム
エコツーリズムを推進する上で、経済効果への寄与は那須平成の森の役割のひとつと言えるでしょう。那須平成の森は、その性格上、那須町(役場)との連携は不可欠なものとなっています(地域の範囲を広げるならば、栃木県(県庁)とも連携しています)。那須平成の森は環境教育施設ではありますが、那須町の観光面での催しなどに出店してプログラム提供をするほか、観光協会の一会員としてプログラムを紹介することで、観光客の入込増にもつながればと考えてきました。
2019年、那須平成の森では2020年度以降に向けた「那須平成の森運営方針」を作成しました。その中のキーワードは、品格、経営、地域です。那須平成の森として必須なものは、元御用邸用地であった歴史を持つ森としての「品格」(元御用邸用地としての歴史、手つかずの自然、高品質のインタープリテーション)を引き継いでいくことであり、品格を支える観点として、地域と連携しながら持続的に上質なサービスを提供するため、「経営」と「地域」の観点での強化が今後必要である(運営方針より抜粋)としています。経営は、那須平成の森の経営そのものであり、さらに地域との連携も明記されました。2020年度より10年目に入りましたが、地域とのつながりを更に強化していく新たな年度が始まりました。どのような形で連携を推進していくのか、知恵を絞っていくことになります。
※第7回は「5年で見直す、インタープリテーション計画 ~社会情勢やニーズの変化には敏感に対応する~」です。(掲載日未定)