那須平成の森が取り組んだ最大の「試み」は「インタープリテーション計画」を作成したことと言っても良いでしょう。今回は、この計画について述べていきたいと思います。
アメリカの国立公園では、自然公園運営に関わる事柄を全て関連付けて考えていく「インタープリテーション計画」が公園ごとに作られています。
私たちワーキンググループは、開園準備業務の当初から、日本の自然公園の運営をより効果的に行うため海外の例を参考にしつつ日本型の「インタープリテーション計画」を作ることにしていました。アメリカの国立公園事情に詳しいメンバーをワーキンググループの一員として参加してもらっていたのはこれを想定していたからです。しかし、日本国内で例にできる同様の計画は見当たらず、まずは那須を取り巻くさまざまな社会状況や歴史、自然環境などについての様々な資料を紐解くことから進めていきました。また、次年度開園する施設の計画であるため、あくまで「仮想計画」として考えていかなければなりませんでした。
このようにして1年間をかけた計画作りが始まっていきました。
インタープリテーション計画(改訂第1版)の一部
「インタープリテーション計画」は、冒頭で計画の全体像を解説している部分を含むと、大きく4つの項目から構成されています。以下、2つ目の項目から順次触れていきます。
□インタープリテーションの基本要素
●自然ふれあい活動(インタープリテーション)の目的
理念、使命、ミッションなどさまざまな言い方があるかもしれませんが、要は那須平成の森が旗印に掲げる、大きな枠組みで捉えた「象徴的」な文章です。
●自然ふれあい活動(インタープリテーション)のテーマ
目的を達成するために、那須平成の森において来訪者に伝えるべき最も重要な知識や概念を定義したものがテーマ。訪れた人々に持ち帰ってほしいメッセージを短い文章で簡潔に記しました。目的に比べより具体的な表現になります。
●対象者の想定
どのような来訪者が那須平成の森に訪れるだろうか?(或は、訪れてほしいか?)、その利用者の属性を「グループの性格による類型」、「自然への関心度による類型」、「その他の類型」の3つに分けて対象者を想定しました。
●望まれる「対象者の体験」(「改訂第1版」(平成28年度発効)への追加項目)
私たちは、インタープリテーションの目的を達成する上で、利用者に「どういう体験をしてほしいのか」「どう感じて帰ってほしいのか」を「インタープリテーション計画」に明記しておくことは重要だと考えました。ここでは、その体験内容と達成目標を「自然への関心度による類型」から関心度を4段階に分け作成しました。
●自然ふれあい活動(インタープリテーション)の手段
「人が介するプログラム」、「人が介さないプログラム」、「利用情報の提供」の3つの手段に分けています。
●諸要素の関連付け
ここまで述べてきた「利用者層の類型」と対応する「インタープリテーションの手段(各プログラム等)」の相互関係を表にして示しました。
□主要なプログラム、および広報媒体
主要プログラムは「公募プログラム(3種類)」、「受託(団体)プログラム(2種類)」。広報媒体では「各種印刷物」、「インターネットメディア」、「デザインの統一」についてまとめました。
□インタープリテーションのための情報収集、集積・共有の方法、情報の提供
日々変化する自然情報は、常に園内や周辺地域の状況を把握する必要があり、そのための作業を日常業務の中に組み込む必要があります。ここでは、自然等の調査方法(情報収集)から、情報の編集(集積し共有する仕組み)、一般化(来訪者への情報提供、プログラム・展示などへのインタープリテーション化)までの仕組みを述べています。
ここまで述べてきた諸項目のそれぞれが互いに関連付けられて「インタープリテーション計画」が作られています。もし、関連付けられない要素があったとすれば再検討し、計画から除外することもあります。
なお、60ページ程度にまとめられたこの計画は職員全員に配布され、那須平成の森(那須高原ビジターセンター)の運営管理に必要不可欠なものとして位置付けられています。
参加者に何を感じてほしいのか?(IPADを使って解説するスタッフ)
デザインの検討のため、実物を現地で確認する
私たちには「インタープリテーション計画は、社会状況や時代のニーズに応じて変化していくべきである」という考え方があります。改訂の時期については明確に規定を設けてはいませんが、計画の適用期限を概ね5年間とし、5年毎に修正を検討する旨をその中に明記しました。「決められたものであっても、十分検討した上で柔軟に変更していく」、これが那須平成の森の「インタープリテーション計画」の大きな特長でもあります。
そして開園5年目に当たる平成27年度、計画は「対象者の利用の特徴」と「対象者に対応するプログラム」を整理、一部修正を行い、追加項目として『望まれる「対象者の体験」』を加え、平成28年度から「改訂第1版」として発効しています。
この段階で、「仮想計画」であったものが5年間の事実に裏付けされた「完成形」として成立したことになりました。
自然情報の収集、1メートル四方の中に落ちているドングリと殻斗の数を調べる
結果はドングリより殻斗の数の方が多い、その理由がインタープリテーションの題材となる
準備期間1年間、集まったスタッフが初めて顔を合わせてからわずか1ケ月半後の開園、そして今年開園6年目を迎えることができました。これまでの運営管理業務の中でまず作っておいて良かったのが、今回のテーマ「インタープリテーション計画」です。この計画は単純にマニュアル的な役割に留まるものではありませんが、この1冊を読めば、そもそもの「目的(理念、使命、ミッションなど)」から、「対象者設定」、「プログラムの内容」、「広報」など運営管理に関わる全ての事項までが述べられているので、いつでも原点に立ち返ることができる訳です。
『新しい施設を考える時、また施設のソフト面でのリニューアルを考える時など「インタープリテーション計画」を作っておくことを是非お薦めしたいと思います』。
今回はこのことをお伝えしたかった、そういうお話でした。